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FMラジオ番組
「まきの聖修の、出せ静岡の底力」













被抑圧少数民族解放の為の人権論


「多数者の支配」は正義なのか?


[2020.3.15]




中国ウイグル自治区における集団殺害(ジェノサイド)



人権思想の変遷


「人権(human rights)」は、人間であるということに基づく普遍的権利である。

 近世ヨーロッパの絶対王政時代は、国王や貴族など一握りの少数者が大多数の民衆を支配する体制であり、多数の民衆が少数の権力者を相手に対抗する手段は「頭数」しか無かった。

 その結果、「多数決」が近代民主主義の基本原理になった。

 しかしながら、革命によって多数者支配の時代になると、「多数者による専制」へと移行した。

 政治学者のアレクシス・ド・トックビルが「多数決は、多数者による少数者の諸権利の剥奪という事態を招来する」と述べたように、「多数者による専制」においては、多数者の名における少数者の支配が合理化・正当化される。

 言い換えれば、「多数による決定だ」と言われたら誰も反対出来ない状態になるという専制主義である。このように、多数決原理は合理的意思決定のシステムではなく、むしろ専制独裁の危険な武器となる。

 多数者専制に対抗する原理として、20世紀に入ると、多元的国家論(=古典的多元主義 classical pluralism)が登場した。

 多元的国家論の淵源は古く、ジェームズ・マジソン(合衆国第4代大統領)の「多様な集団・団体・結社の多数の存在が、特定集団の専制を防ぐ」という「マジソンのジレンマ」に由来する。

 多元的国家論は、第1次世界大戦後、E.バーカー(英)、H.ラスキ(英)、R.マッキーバー(米)、L.デュギー(仏)らによって主張された政治理論である。

 多元的国家論の主な考え方は、次の3つである。

1. 国家を共同社会・全体社会と見做すことに反対し、国家を一つの部分社会、結社と見做す。

2. 国家は他の自発的結社と同様、限られた目的を追求するに過ぎない。

3. 国家は各種の自発的集団の異なった機能を調整する役割を持っている。ただし各集団の固有領域や特殊利益は不可侵であって、国家は全能的統制権を持つものではない。

 以上のように、多元的国家論は、国家の絶対主権を否定し、各集団の機能を基礎として主権を分割することにより、個人の自由を回復しようとした。国家と結社とを本質的に同一種類の集団と規定し、国家を含む諸集団の相互関係や構造を取上げたのが、多元的国家論である。

 現在は、米中2大国家の世界であるが、米国は「多元的国家」に近い政治形態であり、中国は「多数者専制」の国家である。

「党による決定だ」と言われたら誰も反対出来ない中国国内の状態は、「多数による決定だ」という多数者専制と同じ構造である。

 中国の場合、共産党以外の政治結社は認められない為、「多元国家論」は成立不可能であり、「多数者専制」が徹底した国家となる。

 マルクス・レーニン主義の階級闘争史観では、多数者であるプロレタリアートが少数者であるブルジョアジーの残党を弾圧し搾取する事で革命は成就し歴史は前進する、と信じられている。

 そうした中国共産党にとって、チベット人やウイグル人は「反動的」で「反革命的」な文化と伝統と宗教に染まった「ブルジョア」集団であり、再教育(=洗脳)するか絶滅させるべき対象ということになる (21世紀に生きる私達の観点からすれば、マルクス・レーニン主義こそ反動的かつ非文明的なカルト宗教以外の何物でもないのであるが)。

 さらに中国は、マルクス・レーニン主義の教義に加えて、「中華思想」に基づく民族序列化の観念が根強く、漢民族以外を蛮族として下位に位置付け、差別の対象とする伝統が根強く残っている。

 このように、中国の政治思想は19世紀でストップしている。

 中国は、中華思想およびマルクス・レーニン主義の一元論から先に進めない「政治的後進国」であり、20世紀以降の「多様性」を重視する世界の思想潮流とは全く無縁の旧時代の国家なのである。



ジェノサイドと普遍的管轄権


 20世紀における「多数者専制」の最悪事例は、全体主義と社会主義であった。

 これらによってもたらされた悲劇の反省から生まれたのが1948年の「集団殺害罪の防止および処罰に関する条約(ジェノサイド条約)」である。

 これにより、「平時」における集団殺害が「国際法上の犯罪」となり処罰の対象となった。

「国際法上の犯罪」としては、それまでにも「戦時」における捕虜や傷病者の扱いや兵器の使用制限等を定めたジュネーブ条約やハーグ陸戦条約などがあったが、ジェノサイド条約によって「平時」における「国際法上の犯罪」として集団殺害が禁止された意義は大きい。

 因みに日本は、国内法の未整備(条約では「集団殺害の扇動」も対象になるが、日本の国内法では「扇動」だけでは処罰できない等)の問題があり、ジェノサイド条約には未加入である。

 ジェノサイド(Genocide)の造語の発案者ラファエル・レムキンによるジェノサイドの定義は、「国民的集団の絶滅を目指し、当該集団にとって必要不可欠な生活基盤の破壊を目的とする様々な行動を統括する計画」である。

 国際司法裁判所は「ジェノサイドの禁止」については、国際法上いかなる逸脱も許されない規範とし、全ての条約に優先する「強行規範(ユス・コーゲンス jus cogens)」と認めている。

 なお国際法には「普遍的管轄権(Universal jurisdiction)」の概念がある。

 普遍的管轄権とは、ある国が「国際法上の犯罪(大量虐殺、戦争犯罪、人道に対する犯罪)」の容疑者を逮捕した場合、発生場所や容疑者の国籍にかかわらず訴追できるという権利である。

 もともと普遍的管轄権は、領域主権の及ばない公海上で行われる海賊行為に対処するため、海賊行為を「人類共通の敵」として、全ての国家が司法及び執行管轄権を有するものとして扱われるようになったことから始まる。その後、奴隷貿易や戦争犯罪が対象となり、第2次世界大戦後には、国際軍事裁判という超国家的裁判所により個人が裁かれ、「人道に対する罪」さらに「ジェノサイド罪」へと対象が広がった。

 かつてナチス・ドイツのゲシュタポのユダヤ人移送局長官で、アウシュビッツ強制収容所へのユダヤ人大量移送に関わったアドルフ・アイヒマン中佐は、第2次大戦後にはアルゼンチンで逃亡生活を送っていたが、1960年にイスラエル諜報特務庁(モサド)によってイスラエルに連行され、1961年4月より「人道に対する罪」や戦争犯罪の責任などを問われて裁判にかけられた上、同年12月に有罪・死刑判決が下され、翌年5月に絞首刑に処された。

 これは「普遍的管轄権」行使の典型例と見做されるが、そもそも1948年に成立したイスラエル国家は、南米のアルゼンチン在住の「被疑者」の1945年以前の行為に対して、本来ならば裁判権も無ければ逮捕権も持たないはずであるが、「人道に対する罪」という重大な人権侵害においては「管轄権」を行使し得たのであり、当時の国際社会もそれを認めたことになる。

 このように普遍的管轄権には、拷問や無差別虐殺などの重大な人権侵害については、「人類共通の敵」として、どこの国で起こったかに関係なく、国境を越えてどの国の裁判所でも裁かれるべきという原則がある。

 ただし、たとえ司法管轄権の拡大が進んだとしても、「被疑者」の引渡しに関しては、「引渡し条約」などが存在しない限り、引渡し義務は一切ないというのが現在の通説である。そのため、国際刑事裁判所や引渡しのための条約の当事国でない国家との間で、いかに真の普遍的管轄権を創設するかが課題とされている。

 現在、普遍的管轄権を国家として行使しているのは、スペイン、ベルギー、ドイツ、スイス等の国々である。



国際刑事裁判所の成立


「ジェノサイドの罪」や「人道に対する罪」といった国際的な関心の対象となる「最も重大な犯罪」について責任ある個人を訴追・処罰し、また将来において同様の犯罪が繰り返されることを防止する事を目的として、常設機関として創設されたのが、国際刑事裁判所(ICC: International Criminal Court)である。

 国際刑事裁判所は、1998年7月17日に国際連合全権外交使節会議において採択された国際刑事裁判所ローマ規程(ローマ規程または、ICC規程)に基づき、2003年3月11日、オランダのハーグに設置された。判事・検察官などは締約国会議によって選出され、公用語は英語とフランス語である。

 因みに、国際刑事裁判所は、国際司法裁判所(ICJ: International Court of Justice)とは全く異なる機関である。国際司法裁判所は、国連の常設司法機関であり、国家間の法的紛争(係争案件)を扱う裁判所である。国際刑事裁判所は国連から独立した裁判所であり、国連との協力関係は「国連と国際刑事裁判所の地位に関する合意」(国連地位協定)の締結によって成立している。

 国際刑事裁判所の締約国は124か国で、日本は2007年7月17日に加入している。なお、米国、中国、ロシア、インド等は未加入である。

 国際刑事裁判所の基本原則は次の3つである。

1.国際的な関心の対象となる最も重大な犯罪に関して裁判を行う権限(管轄権)を有する。対象となるのは「集団殺害(ジェノサイド)犯罪」、「人道に対する犯罪」、「戦争犯罪」、「侵略犯罪」である。

2.上記犯罪を行った個人の責任を問う。

3.各国の国内刑事裁判所が有効に機能している場合には介入しない(「補完性の原則」)。

「補完性の原則」とは、当事国の国内裁判所が正常に機能しない場合のみ国際刑事裁判所が管轄するという原則であり、当事国の国内裁判所が正常に機能している場合には、国際刑事裁判所はその国の裁判所を差し置いて事件を取り上げないということである。

 国際刑事裁判所参加国で重大な人権侵害が発生した場合、または国際刑事裁判所参加国の国民が重大な人権侵害を行った場合に、国際刑事裁判所は管轄権を持つ。

 一方、国際刑事裁判所に参加していない国で重大な人権侵害が発生した場合、国連安保理が事件を国際刑事裁判所に任せると決定したならば、国際刑事裁判所が管轄権を行使し得る。ただしこの場合も、当事国の国内裁判所の判決が優先される。

 こうして見れば、チベットやウイグルの人々は、国際刑事裁判所での救済は不可能に近いということになる。

 そもそも中国は国際刑事裁判所に加盟しておらず、国際刑事裁判所の管轄外である。また、中国は国連安保理の常任理事国でもあるから、いつでも拒否権を発動して国際刑事裁判所の国内介入を阻止し得る。

 しかも、中国の国内裁判制度は一応正常に機能しているものと判断される為、国際刑事裁判所が中国の裁判所を差し置いて介入することは出来ないのである。


人権財団としての提案 ①
 国際刑事裁判所が「普遍的管轄権」の行使を宣言すること

 真にチベット人やウイグル人の人権を守る為には、現行の国際法に合わせて彼等の人権を守ろうとするのではなく、彼等を守る為に国際法を変更すべきである。

「普遍的管轄権」を国家に求めるには限界があり、国家から超越した独立機関に期待する以外に無い。

「ジェノサイドの禁止」に限っては国際法上「強行規範(jus cogens)」が適用される為、ジェノサイドの罪に限り、国際刑事裁判所が「普遍的管轄権」の行使を宣言する事は可能である。英米法哲学に基づく国際法の世界では、既成判例を作ってしまえばそれが「法」となる。

 国際刑事裁判所が「普遍的管轄権」を行使すれば、国際刑事裁判所に参加していない国家の「被疑者」を裁判にかけて裁く事が可能となる。また、国際刑事裁判所に参加していない国家の国民でも、個人通報権を行使して国際刑事裁判所に「被疑者」を告発することが可能となる。



多数者専制社会における少数者救済問題


 高度情報化社会の到来によって、現代社会は多数決原理の時代から多様性を認め合う時代へと移行段階にある。

 しかしながら、閉鎖的空間においては未だに旧時代の遺制とも言える多数者専制の社会が残存している。

 多数者専制社会においては、少数者が抑圧される一方であり、生存の権利を剥奪された状態に置かれている。

 こうした多数者専制社会における少数者は、民主主義では決して救済される事がない。

 民主主義では救済されない少数者の権利をどう守るか。


人権財団としての提案 ②
 個人通報制度のシステムを国際社会が提供すること

 日本の徳川時代は、当時の世界で最も進んだ人権国家であった。

 1721年に徳川吉宗が施行した「目安箱制度」は、今日でいう個人通報制度である。小石川養生所設置や町火消制度は、目安箱に投函された庶民の進言に基づいて施行された。また徳川時代最大の農民一揆であった郡上一揆では、1758年に農民が目安箱に投函した訴状を幕府が吟味した結果、郡上藩主・金森家断絶の裁定が下された。

 少数者の権利を守る上で最低限必要な手段が、個人通報制度のシステムである。個人通報制度のシステムを被抑圧少数民族の人々に提供することが、国際社会における喫緊の課題である。

 多元的国家論の現代社会においては、仮に政府に期待出来ない場合でも、各種の独立機関や法人やメディア等の組織を通じて様々な対策が為されてゆく。

 言論の自由が無く、出版や新聞発行も出来ない被抑圧少数民族の人々が、世界に向けて意見表明が可能な唯一の方法が、インターネットへの動画投稿である。


実行手順

1. 現地の被抑圧少数民族の人々に通報装置(衛星携帯電話等)や動画撮影用機器等を供給(最終目標は一人一台)

2. 被抑圧少数民族の人々が動画を撮影し、衛星携帯電話でネット上に動画を投稿

3. ネット上に投稿された被抑圧少数民族の人々の動画を、世界中の各機関やメディア等に向けて転送・拡散


 衛星携帯電話は、人工衛星を中継局として直接利用が可能な為、通常の携帯電話の地上中継局が存在しないような僻地や奥地や山間部でも通信が可能である。

 たとえ少数民族の人々が文章を書けなくても、「百聞は一見に如かず」で、現地で起きている事件や出来事を映像として閲覧出来れば、世界中の人々が抑圧の実態を知る事になる。

 やがて世界中で抑圧当事者への告発の世論が巻き起これば、それらが各国政府を動かし、必ずや被抑圧少数民族解放への道を切り開く事が可能となるであろう。











《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




 定款(PDFファイル)




《連絡先

一般財団法人
人権財団本部
〒100-0014
東京都千代田区永田町2-9-6
十全ビル 306号
TEL: 03-5501-3413