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「まきの聖修の、出せ静岡の底力」













人民解放軍「建軍100年奮闘目標」とは


五中全会コミュニケが意味するもの


[2020.11.15]




中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議(五中全会)



「全面的戦争」への準備が提起された五中全会


 米大統領選では、ジョー・バイデン前副大統領が事実上勝利し、2021年からの4年間、米国は民主党政権になる事が確実となった。

 一方、尖閣諸島海域においては、中国艦による我が国領海への侵入が、かつて無い規模と頻度で発生している。また先月には、台湾海峡において、中国軍が台湾侵攻の模擬演習と見られる活動を行った。いずれも、米大統領選のタイミングを狙った中国軍の軍事行動であったと考えられる。

 そうした中国軍の活動と同時期の10月26~29日、中国では共産党の重要会議「五中全会」(中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議)が開催され、「国民経済・社会発展第14次5カ年計画」および「2035年までの長期目標の策定に関する中共中央の提議」が審議・採択された。

 今回の五中全会の大きな特長としては、2027年の「建軍100年奮闘目標」が新たに提起された事が挙げられる。

 五中全会コミュニケでは、
「全面的戦争に備え練兵強化を行い、国家主権、安全、発展利益を防衛する戦略能力を高め、2027年に建軍100年奮闘目標の実現を確実にする事」と謳われている。

 これまで中国共産党は、2021年の「建党100年」や2049年の「建国100年」を、様々な国家目標の期限に設定していたが、今回、2027年の「建軍100年」という新たな目標期限が加わったことになる。

 ここで注意すべきは、五中全会コミュニケの「国家主権、安全、発展利益を防衛する戦略能力を高め」という表現である。

「国家主権、安全」の防衛については当然と言えるが、「発展利益を防衛」との表現は重要な意味を持つ。

「発展利益を防衛」とは、例えば中国が現在推進している「一帯一路」や海洋進出など中国の勢力「発展」の途上で、中国の「利益」を害する存在が現れた場合は、武力行使により排除すべしという意味になる。

 10月31日付の「人民日報」に掲載された五中全会の会議録によれば、習近平は五中全会の会議において、
「この2年間、至る所で狼煙が上がり、緊張感が高まっている」
「米国など西側の軍隊が我々に干渉し、侵入し嫌がらせをする頻度と強烈度が上昇している」
「米軍艦、軍用機が我々の南シナ海の島礁海空域に侵入し、偵察行為を行っている他、カナダ、フランス、オーストラリアなどの軍艦も台湾海峡にやって来て威圧を試みている」
「台湾独立派の活動もひどくなっており、この4年連続で米国から対艦ミサイル・ハープーンなど攻撃兵器を購入し、西側勢力と頻繁に結託し、疫病を利用して独立を図ろうとしている」
「西部ではインドが冒険的な妄動を止めておらず、中印国境のパンゴン辺りの対立は依然として激化の可能性がある」
などと発言したという。

 即ち、習近平が提唱する「建軍100年奮闘目標」とは、中国の覇権拡大を阻害する国々との「全面的戦争」に備え、2027年までに人民解放軍の「戦略能力」の大幅向上を達成せよとの目標に他ならない。

 これは党最高指導者の決定である為、これから7年間の中国は、国家の総力を挙げてこの目標に向けて邁進する事になるであろう。



南シナ海の次に太平洋の覇権を狙う中国


 かつて習近平がオバマ大統領と会談した際に、「太平洋は中国とアメリカの2国が活動するのに十分な広さがある」と発言した。

 言うまでもなく、太平洋は公海である。その太平洋を、中国とアメリカとで二分するという発想に、習近平の世界観が表れている。

 習近平が提唱し推進している「一帯一路」はランドパワーによる覇権戦略であるが、習近平はそれと並行して、シーパワーによる覇権戦略をも構想している。

 地政学では、「海を制する者が世界を制する」というテーゼがある。

 そして米中対決においては、太平洋を制した側が勝利するであろう。

 世界中でコロナ騒動が始まって間もない今年2月、中国海軍駆逐艦など4隻が、太平洋の日付変更線を越えて、41日間にわたり、1万4千海里を航海した。

 その行動について、中国軍の機関紙「解放軍報」は、「米国覇権への挑戦であり、今後回数を増やしていく」と報じた。

 また同時期に、グアム西方約380海里の海域において、偵察飛行中の米海軍哨戒機P-8に向けて、中国軍艦がレーザー照射を行った。航空機へのレーザー照射は、「撃墜準備完了」を意味する極めて敵対的な準戦闘行為である。米国防総省は直ちに中国当局に抗議した。

 このように、今や太平洋のほぼ米国側の海域においても、米中間の軍事的な緊張が頻発している。

 最早、中国海軍は南シナ海や「第一列島線」を越えて、太平洋を舞台に活動を活発化させているのである。

 そして中国は現在、南シナ海に続いて、西太平洋や南太平洋の島嶼国家を傘下に収める戦略を遂行しつつある。

 太平洋の島嶼国家は、それぞれの島が孤立しており、いずれも人口が少なく、観光以外の産業がほとんど無い貧困国家である。

 しかしながら地政学的観点からすれば、米中間の広大な海域に点在する戦略的要衝であり、いずれの島嶼も軍事的価値は極めて高い。

 そのため、シーパワーの覇権を企図している習近平にとって、太平洋島嶼国家は格好のターゲットなのである。

 中国は、これらの財政的に貧しい諸国に対し、インフラ開発の名目で中国からの多額の融資を受け入れさせ、債務返済が滞った際には、債権者による「差し押さえ」の如く、港湾などの領土の占有や租借を強行する、といった行為を繰り返している。

 こうした「債務の罠」を利用した侵略主義こそが、中国の「一帯一路」に共通する実態であり、中国版グローバリズムの本質でもある。

 昨年、債務に苦しむ大洋州諸国のキリバスおよびソロモン諸島の2カ国が、中国の圧力によって台湾と断交し、中国と正式な国交を結んだ。

 他にも、バヌアツ、フィジー、サモアおよびトンガなどが、中国からの多額の債務に苦しんでいる。

 豪州に近いバヌアツには、中国の軍事基地が建設されるという情報もある。

 また、中国政府系企業がソロモンのツラギ島全域とその周辺地域を75年間租借する交渉が進められている。

 このようにして、中国は太平洋上に点在する島嶼の軍事拠点化を図り、軍事用の港湾や滑走路の建設を推進している。さらにこれら島嶼群の要塞化に加え、中国海軍艦艇や空軍機などが緊密に連携しつつ、中国は着実に太平洋における覇権戦略を展開しているのである。

 このまま中国の海洋覇権拡大を放置すれば、南シナ海と同様に、西太平洋や南太平洋も「中国の海」になり、やがて米軍基地が存在するグアムやハワイなども、太平洋上の中国軍基地によって直接的な脅威を受けるようになるだろう。

 また、日本列島は中国の勢力圏に包囲され、米国との海上ルートが分断されて孤立化する事になる。

 世界覇権を目指す習近平の中国が、今後の米バイデン政権の4年間を絶好の機会と見做して、太平洋における覇権を本格的に拡大させる事は確実である。

 そして、太平洋の主要海域において中国が軍事的プレゼンスを確立してしまえば、もし4年後に米国で対中強硬派の政権が成立したとしても、すでに米中対峙における中国の絶対的優位性は揺るがない状態になっているであろう。

 そうした場合は、台湾および尖閣諸島への中国による武力侵略は最早避けられない運命となる。

 米国本土と極東地域との間の兵站・補給線が太平洋上で遮断されたならば、台湾や尖閣諸島は、熟柿が落ちるが如く中国の手に落ちる事は必然である。

 五中全会の宣言どおり、2027年までにこうした事態へと歴史が流れてゆく可能性は高い。

 世界覇権に向けて戦争準備に余念が無い中国を封じ込め、自由世界を防衛し得るか否かは、これから4年間の米国の新政権の対中政策に懸かっていると言って過言ではない。

 我が国の政府や国会においても、真剣な議論が望まれる。











《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




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《連絡先

一般財団法人
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