Top Page



 理事長プロフィール





FMラジオ番組
「まきの聖修の、出せ静岡の底力」













日米共同声明とバイデン政権の真意


目前に迫った台湾有事への対応は


[2021.4.19]




日米首脳会談に臨む菅首相とバイデン米大統領 4月16日 ホワイトハウス
PHOTO(C)首相官邸HP

トーンダウンした日米共同声明


 4月16日、菅義偉首相はワシントンにおいてバイデン米大統領との首脳会談に臨み、共同声明を発表した。

 菅首相とバイデン大統領は、先月の日米安全保障協議委員会(日米2プラス2)の共同声明を全面的に支持し、米国は、日米安保条約の下、核を含むあらゆる能力を駆使して日本を防衛することへの揺るぎない支援を再確認した。

 今回の日米共同声明では、海洋覇権を拡大し続ける中国を念頭に、「自由で開かれた秩序に基づく国際秩序への挑戦に対抗する」と結束を強調し、日米同盟は「インド太平洋地域と世界平和の礎を築いている」と、同盟関係の新時代を宣言した。

 また、尖閣諸島に対する日米安保条約第5条(=共同防衛義務)の適用も再確認された。米国側の声明では、「私達は共に、尖閣諸島に対する日本の管理を弱体化させようとする如何なる一方的な行動にも反対する」との言葉が含まれた。

 共同声明では、「経済的なもの及び他の方法による威圧の行使を含む、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有し」、「日米両国は、普遍的価値及び共通の原則に基づき、引き続き連携していく」とした。

 また日米両国は、「地域の平和及び安定を維持するための抑止の重要性も認識」し、「東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対」し、「南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動への反対を改めて表明するとともに、国際法により律せられ、国連海洋法条約に合致した形で航行及び上空飛行の自由が保証される、自由で開かれた南シナ海における強固な共通の利益を再確認」した。

 さらに共同声明では、日米両国は、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とし、「香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する」とした。

 しかしながら、そうした「懸念を共有」したにも関わらず、共同声明では「日米両国は、中国との率直な対話の重要性を認識するとともに、直接懸念を伝達していく意図を改めて表明し、共通の利益を有する分野に関し、中国と協働する必要性を認識した」などと、中途から対中姿勢が宥和的にトーンダウンしてしまった。

 日米共同声明に「台湾」について明記されたのは、1969年の佐藤・ニクソン会談以来という事で、日本国内のマスコミは大騒ぎしているが、佐藤・ニクソン会談の共同声明で明記されたのが「台湾情勢」という表現であったのに対し、今回の声明では「台湾海峡」という表現であって、「台湾」そのものを指しているわけではない。一歩前進ではあったが、画期的というほどの事ではなかった。

 一方、在米中国大使館は、日米首脳会談の共同声明が台湾や香港、東シナ海などの問題に懸念を示した事に対し、
「中国の根本利益に関わる問題で、干渉することは許されない」
「二国間関係の正常な発展という範囲から、完全にはみ出している」
と非難し、東シナ海と南シナ海の領土主権や海洋権益の問題も含め、
「中国は国家の主権や安全、発展の利益を固く守り抜く」
と強調した。

 バイデン政権の対中政策は、トランプ前政権のような米国主導による対中強硬路線ではなく、周辺諸国が中国に対抗して闘うなら後押しするという程度の「多国間主義」である。

 今後数年以内に予想される台湾有事をはじめ、いざという時に、米国が中国に対して強硬な態度で望めるかどうかは、全くの未知数である事を忘れてはならない。

 かつての米ソ冷戦の際は、米国が絶対的な軍事強国かつ経済大国としてソ連に対抗したからこそソ連は崩壊し得た。

 しかしながら、2026年には中国海軍が米太平洋艦隊の戦力を上回り、2030年には経済力でも中国が米国を追い抜いて世界一になる事が予想されている。

 先月9日、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官が、米上院軍事委員会の公聴会で、「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」との証言にも現実味がある。

 バイデン政権の「多国間主義」による対中包囲戦略は、古代中国の春秋戦国時代において、強国「秦」に対抗して他の6カ国が同盟した「合従策」のようなものである。それに対して「秦」は、6カ国のそれぞれと個別に同盟を結ぶ「連衡策」によって「合従策」を崩壊させ、その後6カ国を順次一つずつ滅ぼしていった。

 この「合従策」と「連衡策」は、中国人なら誰でも知っている戦略であり、今後の習近平政権が、対中包囲網の国々を個別に調略してくる事は十分想定される。

 今回の日米共同声明において、「共通の利益を有する分野に関し、中国と協働する必要性を認識」と謳われている事の意味は深刻である。

 これは中国への「牽制」どころか、中国とは個別に協力してゆくという意思表明であり、中国が今後仕掛けて来る「連衡策」に積極的に嵌ってゆく事を意味する。

 2030年以降は、軍事でも経済でも中国が世界における超大国となり、米国は二番手のローカル勢力に過ぎなくなる。

 小国同士の「合従策」は、大国による「連衡策」の前には簡単に崩壊する事は歴史が証明している。



秒読み段階の台湾有事


 台湾に対する中国の軍事的圧力も高まっている。

 4月12日には、中国軍の戦闘機25機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入した。

 1996年3月の第三次台湾海峡危機の際に見られたように、以前であれば、台湾に対して中国が圧力をかけた場合、米空母が出動すれば中国は引き下がった。

 しかしながら、現在の中国は「空母キラー・ミサイル」を保有しており、米国としても容易に主力空母を送り込む事は出来ない。

 ホワイトハウスに影響力のある米外交問題評議会(CFR)の論客で元米外交官のロバート・ブラックウィル氏は、米国は台湾防衛から距離を置くべきだと唱えている。

 ブラックウィル氏の戦略は、米軍は空母への依存度を減らすべきだとする。また台湾有事の際には、米国は中国本土の中国海軍・空軍基地を攻撃しない。もし中国が台湾を制圧した場合には、米国は世界に呼び掛けて中国を政治的・経済的・軍事的に締め出すことで対抗する、というものである。

 バイデン大統領が抱いている対中戦略も、ほぼこのシナリオ通りであろうと考えられる。

 そもそも当事者である台湾「国内」そのものが、独立で意思統一されているわけではない。

 親中派の国民党支持者は根強い勢力を持ち、独立派と激しく闘っている。また、中国本土に投資をしている人も多く、経済的に中国本土とは切り離せない状況に置かれている。

 台湾最大の半導体生産企業である台湾積体電路製造(TSMC)は、中国のファーウェイをはじめ多くの中国企業とも不可分の協力関係を構築しており、そうした企業の従業員およびその家族は、中国本土から分離される事を望まないであろう。

 こうした意味でも、台湾の「国内」は香港社会の実情に近いものがある。

 中国共産党が香港社会の「分断」によって香港を統治したように、今後は台湾社会においても分断工作が激しくなるであろう。

 一昨年来、全世界を騒がせた香港情勢が収束してしまった顛末を鑑みれば、台湾有事の後も、台湾が米国や西側諸国から見殺しにされる公算が大きい。

 台湾有事の際には、米国をはじめ西側諸国は、中国への強い非難と制裁を行い、全世界にアピールするであろうが、決して武力介入はしないであろう。

 これは、すでに2014年のロシアによるクリミア占領の際の対応でも証明済みの事であり、2020年の「香港」によって確証されたものと、中国当局は理解している。

 台湾併合は、中華人民共和国建国以来の悲願であり、毛沢東主義者の習近平にとってのライフワークでもある。

 それ以上に、世界制覇を目指す中国にとっては、太平洋への出口が是非とも必要なのである。

 地政学では、「海を制する者が世界を制する」とされる。

 中国としては、インド洋への出口として「ミャンマー」を、太平洋への出口として「台湾」を手中にしなければならないのである。

 米国が介入する事さえ無ければ、中国が台湾を武力占領する事は確実である。

 今後は、中国数千年の深謀遠慮に長けた中国流の外交が展開され、世界は「分断」され、中国に各個撃破されてゆくであろう。

 我が国としては、日米共同声明で浮かれている場合ではない。

 日本政府は最低限の課題として、「ジェノサイド条約」の批准およびそれに伴う国内法整備を目指し、西側諸国と共に対中制裁に参加するくらいの国際的責任感が必要である。











《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




 定款(PDFファイル)




《連絡先

一般財団法人
人権財団本部
〒100-0014
東京都千代田区永田町2-9-6
十全ビル 306号
TEL: 03-5501-3413