Top Page



 理事長プロフィール





FMラジオ番組
「まきの聖修の、出せ静岡の底力」













台湾有事における中国のシナリオ


目前に迫る台湾有事に日米は対応出来るのか


[2022.1.14]




日米2プラス2 (左上・ブリンケン国務長官、右上・オースティン国防長官、左下・林外相、右下・岸防衛相
PHOTO(C)外務省


同盟の結束を確認した日米2プラス2


 昨年11月末、米国防総省は「グローバルな態勢の見直し」(Global Posture Review)を発表した。

 この報告書は、NATO加盟国や日本、オーストラリア、韓国の他、中東やアフリカ地域の10か国以上の同盟国や友好国との意見交換を経てまとめられたものである。

 報告書の要点は以下の2点である。

1.インド太平洋地域の安定と中国の軍事的進出に対処する為、インド太平洋地域を最優先する事

2.同盟国や友好国との協力を強化する事

 即ち、米国は世界の諸地域で兵力や軍備を縮小し、特に中東から軍事力を引き揚げて、対中国戦略を念頭に、インド太平洋地域に重点的に軍事力をシフトする。その際、同盟国や友好国に基地の提供やローテーション配備などを求めてゆくというものである。

 そして、この戦略を推進する皮切りに、今年1月7日、日米両国政府の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)が開催された。

 前回の「日米2プラス2」が昨年3月であったことを考えれば、極めて短いスパンの開催であり、日米間協力の緊密ぶりが表れている。

 日本からは林芳正外相と岸信夫防衛相、米国からはブリンケン国務長官とオースティン国防長官が参加し、新任のラーム・エマニュエル駐日大使も出席した。

 協議では、中国の軍事的拡張や北朝鮮問題について意見交換がされた他、極超音速兵器など新たな脅威に対する認識が共有された。協議後に発表された共同文書では、日米同盟の技術的優位性を確保するための研究協力を行うことなどが盛り込まれた。

 林外相は、「2022年は日本の安全保障政策にとって非常に重要な1年になる」と述べた上で、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持し、地域の平和と安定を確保する為にも、戦略的利益と普遍的価値を共有する日米両国は結束してリーダーシップを発揮すべき」と表明した。

 岸防衛相は、「日米2プラス2を開催して日米の強固な連帯を対外的に示す事、および今後の日米同盟の方向性について認識を共有する事は、極めて意義深い」と述べた。

 一方米国側は、核を含むあらゆる種類の能力を用いた対日防衛義務へのコミットメントを表明し、「核の傘」が健在である事を示した。

 さらに日米双方は、インド太平洋地域の情勢について意見交換を行い、「インド太平洋地域と世界全体の平和、安定及び繁栄に対して中国が及ぼす影響」について議論した。

 そして、南シナ海における中国の不法な海洋権益に関する主張や威圧的な活動に強い反対を示し、地域の安定を損なう行動に対しては必要であれば対処する事で日米双方は意見を一致させた。

 また協議は人権問題にも及び、新疆ウイグル自治区や香港など中国「国内」の深刻な人権問題についても懸念を表明した。

 共同文書では、「日米双方は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」事が盛り込まれた。


「グレーゾーン」戦略による台湾侵攻


 今回の「日米2プラス2」は、明確に「台湾有事」を意識したものであった。

 今年秋に予定されている第20回中国共産党全国代表大会において、習近平は3期目の政権確立と同時に、毛沢東以来の「共産党主席」という役職を復活させようとしている。

 もともと中国共産党における最高位は「共産党主席」であったが、毛沢東が党主席を務めた後、「党主席」の地位が神聖不可侵の扱いとなり、その後の中国共産党の最高位は、「党主席」よりも1ランク下の「党総書記」になって今日に至っている。

 これは、かつてソ連共産党における最高位の「党委員長」をレーニンが務めた後、スターリン以降の最高位が「党委員長」よりも1ランク下の「党書記長」になった事と同様の事情であり、いずれも権威主義の典型的な表れである。

 そうした神聖不可侵の「共産党主席」の地位をわざわざ復活させ、しかもその地位に習近平が就くという事になれば、習近平が毛沢東と並ぶくらい偉大である事を中国人民の前で証明しなければならない事になる。

「建国の父」である毛沢東と肩を並べるくらい偉大な事をやろうとするならば、毛沢東が成し遂げられなかった「台湾統一」を実現する他には無いと習近平は考えている。

「偉大な中華民族の復興」を掲げる習近平は、「何世紀にもわたって他国に蹂躙されてきた中華民族の地位を取り戻すには、台湾統一は実現しなければならないし、必ず実現する」と、これまでに何度も繰り返し明言してきた。

 今年秋の党大会で「共産党主席」を目指す習近平にとっては、党大会までに「台湾統一」が必須不可欠の最重要課題となっている。

 さらに、これまで習近平人気を支えてきた中国の経済成長が、ここに来てコロナ禍や不動産不況で頭打ちとなり、「3期目」の正当性さえ危うくなっている状況の中、習近平は大逆転の成果を挙げるべく焦っているところである。

 こうした事から、「台湾有事」が今年の秋までに発生する蓋然性は急速に高まっている。

 現在中国は、台湾に対して「グレーゾーン」戦略を展開している。

「グレーゾーン」戦略とは、「平時」でもなければ「有事」でもない、「衝突を伴わない軍事行動」である。

 昨年来、中国人民解放軍は台湾に対し、武力衝突には至らない軍事演習や監視活動を、ほぼ毎日繰り返している。

 中国側は台湾空域に頻繁に軍用機を派遣し、台湾領の群島周辺に海砂採取船の船団を送り込むなど、緊張をエスカレートさせている。

「グレーゾーン」戦略の恐ろしいところは、人々に「また偵察機の飛来か」「またいつもの軍事演習か」などと思わせておいて、ある日、演習ではなく本物の軍事侵攻を実行し得る事にある。

 1989年の天安門事件の際の、人民解放軍による制圧方法も同様であった。先ず5月19日に北京市に戒厳令を布き、当初は「非武装」の軍隊を、天安門広場内や市内各所に大量に駐屯させ、その後2週間余りの間、デモに参加していた学生や市民達を十分に安心させておいてから、6月4日に一気呵成に武力鎮圧したのであった。

 1989年の中国軍は天安門広場を数時間で制圧した。同様に、現在の中国軍は台湾本島を24時間以内に制圧する事が可能である。

「グレーゾーン」戦略を展開しながら、中国による台湾の軍事占領作戦は現在進行中なのである。

 一方、中国外務省報道官は、「台湾与党の民進党と独立を志向する勢力が、他国と共謀して常態的に挑発行為を行っており、これが現在の台湾海峡の緊張と騒乱の根本原因になっている」などと強弁している。

 だが実際には、台湾に対する軍事的挑発行為を毎日のように繰り返している中国こそが、台湾海峡の緊張と騒乱の根本原因になっている事は明白である。

 世論調査と最近の選挙結果によれば、台湾住民の大半は自分達を「中国人」というよりはむしろ「台湾人」であると自覚している。また、中国よりもむしろ米国との経済・外交関係の強化を支持している。とりわけ近年の香港や新疆ウイグルに対する中国政府の弾圧政策を見れば、反北京感情が高まるのは必然であろう。

 中国福建省廈門市の沖合6キロに金門島という台湾領の島があり、現在約14万人の台湾の人々が暮らしている。

 この金門島は、1958年に第二次台湾海峡危機の舞台となった場所でもあり、第二次国共内戦の最後の戦場とされている。

 第二次台湾海峡危機は、1958年8月23日、中国人民解放軍が金門島への侵攻目的で同島に砲撃を行った事により勃発した戦闘で、台湾では「八二三砲戦」と呼ばれる。

 実質的な戦闘行為は1958年10月5日まで続けられたが、人民解放軍による砲撃は1979年1月1日までの20年余にわたり定期的に継続された。

 従って今のところ、1979年1月1日が、第二次国共内戦における最後の戦闘行為とされている。

 ただし現状は、あくまで中国人民解放軍側が一方的に戦闘行為を中断しただけの状態に過ぎない。そのため、いつ中国側が再び攻撃を仕掛けても不思議ではない状態にある。

 上記のような経緯から、今後中国が台湾侵攻する際には、人民解放軍は警告なしに、台湾軍司令部や防衛拠点および主要インフラ等を標的に、爆撃機やミサイルによる攻撃を展開する事が予想される。

 中国共産党にとっては、第二次国共内戦は現在も継続中なのである。


ロイター通信が配信した「T-DAY 6つの有事シナリオ」


 昨年11月30日、英国のロイター通信社は、台湾有事を「T-DAY」として「6つの有事シナリオ」をシミュレーションした記事を配信した。

 6つのいずれのケースも、不測の事態を招きかねず、米中が戦争に突入する可能性がある。

 以下は、ロイター通信の「T-DAY 6つの有事シナリオ」の概略である。


 先ず「6つの有事シナリオ」の第1は「馬祖封鎖」である。

 馬祖は、福建省から約9キロの小さな島々で、中国沿岸を囲むように連なり、約1万3500人が暮らしている。中国共産党は、これらを廉耕市の一部と主張している。

 馬祖封鎖作戦では、中国は人民解放軍の水上艦と潜水艦で馬祖の島々を取り囲み、その背後に何百もの民兵船団や漁船を控えさせた上で、台湾側に対し「中間線を超えた戦闘機や哨戒機、艦艇は攻撃対象になる」と警告を出す。さらに中国政府は、許可のない民間機と軍用機が台湾本島から馬祖へ飛ぶことを禁止し、民間船舶を含めた台湾の船が諸島に入港することも禁じ、封鎖の突破を試みる旅客船や補給船は拿捕すると警告する。

 かくして、馬祖に駐留する台湾の沿岸警備隊と軍の部隊は孤立させられることになる。

「6つの有事シナリオ」の第2は「金門島侵攻」である。

 中国当局は、米国とその同盟国が金門島のような小さな島を巡って戦線を拡大するリスクを冒さないものと判断する。

 そこで中国軍は、金門島に対する空爆や砲撃と並行して、揚陸艇による上陸部隊と空挺舞台によって主要地点を奪取し、中国沿岸の海軍基地からは重装備の艦艇と潜水艦を派遣し、金門島を海上封鎖して台湾からの支援が届かないようにする。

 国際的な批判が高まる中でも、中国は国連常任理事国の立場を利用して国連が金門島侵攻を批判するのを阻止しようとする。

「6つの有事シナリオ」の第3は「物流と往来の分断」である。

 中国当局は、台湾を西側世界から隔離しようとして、台湾を発着する物流や人の往来に対して「税関検疫」を実行する。

 また中国当局は、台湾に近づこうとする外国の軍隊は攻撃するとの警告を発する。

 中国は、海軍や海警局、海上民兵の大規模な艦隊を台湾周辺に展開し、中国政府の許可無く台湾に近づこうとする船舶は拿捕する。さらに人民解放軍の戦闘機や防空ミサイル部隊は、台湾周辺の空域に無許可で進入する航空機に対して攻撃をかける。

 全ての輸出入が突然ストップしたことで、台湾ではエネルギーをはじめとする生活必需品がほぼ不足する。かくして台湾は世界経済から切り離され孤立無援となる。

「6つの有事シナリオ」の第4は「台湾完全封鎖」である。

 中国海軍は台湾の主要港に入る航路に機雷を敷設し、台湾と世界を繋ぐ海底通信ケーブルを全て切断する。

 中国軍は米軍や日本の自衛隊が台湾に接近するのを阻止する為、台湾周辺海域に艦艇や戦闘機を配備する。

 中国当局は、自国海軍と海警局の艦船以外が台湾周辺海域に進入する事を禁止し、さらに中国が台湾上空に新たに設定した防空識別圏(ADIZ)に侵入した全ての航空機を攻撃すると警告する。

 台湾本島は完全に封鎖され、物資不足が深刻化する。

 台湾危機がこれ以上エスカレートすれば米中全面衝突に繋がる恐れがある事から、米国と同盟国は中国本土を軍事攻撃するよりも、経済的な報復で対抗する方針を決める。

 米国とその同盟国は、原油や原料を積んでインド洋のシーレーンやインドネシアの狭い海峡を通過する中国船を足止めし、逆封鎖すると警告する。 

「6つの有事シナリオ」の第5は「大規模空襲作戦」である。

 中国経済は、巨大な不動産バブルの崩壊により成長が急激に鈍化し、世界最大の軍事力を実現した防衛費の大幅増額を維持し続ける事は困難である。

 中国当局は、台湾を支配するには武力戦争を避けては通れないと判断している。米国との対立が激化する中で、行動の遅れは「台湾統一」を一段と困難にし、共産党指導部が内部反乱の危険に晒されることを意味する。

 中国共産党指導部は、上記の「離島の奪取」や「隔離」や「封鎖」といった限定的で間接的な作戦手段を検討したものの、最終的にはそれら全てを選択肢から除外する。

 たとえ限定的で間接的な作戦であったとしても、全面的侵略を行った場合と変わらず、世界的な経済危機を引き起こし、米国とその同盟国からの介入を招く可能性が高いと中国当局は計算した。また、限定的手段によって台湾が屈服するという保証も無い。

 限定的・間接的手段は、むしろ困難な作戦であり、失敗する可能性がある。そして失敗は、中国共産党の権力を揺るがす結果を招きかねない。

 そうであれば、直接台湾に対して壊滅的な空襲とミサイル攻撃を行う事が、確実に勝利に直結する道である。それは台湾軍を崩壊させ、市民の意気を消沈させ、米国とその同盟国が介入する前に台湾側を降伏させる事になる。

 そこで、人民解放軍は警告なしに、台湾の主要な軍・民間の目標に大規模な飽和攻撃を実施する。飛行場や港湾、防空レーダー、通信施設、軍司令部・本部、ミサイル砲台、海軍基地、主要艦艇、主要橋梁、発電所・送電網、政府庁舎、ラジオ・テレビ局、データセンター、主要幹線道路などが攻撃対象となる。

 中国当局は、米国とその同盟国が台湾支援のため軍を派遣するのを阻止すべく、ミサイル、海軍、空軍を投入する。その後、まだ稼働可能な台湾の海軍艦艇、戦闘機、ミサイル砲台をも攻撃する。

 台湾軍は甚大な被害を受け、主要なインフラも破壊される。

「6つの有事シナリオ」の第6は「全面侵攻」である。

 中国共産党指導部は、上記の「離島の奪取」や「隔離」や「封鎖」などの限定的・間接的アプローチは問題外として選択肢から除外した上で、大規模空襲作戦を検討した。

 しかしながら、台湾本島への空爆やミサイル攻撃は、米国による全面的な対中戦争に直結しかねない。さらに、大規模空襲によって台湾が降伏するという保証は無い。

 かくして中国共産党指導部は、最大かつ全面的な台湾上陸作戦を最終決定する。人民解放軍の目標は、米国とその同盟国が反応してくる前に台湾を完全制圧することにある。

 展開としては、人民解放軍が突如、台湾全土の主要な軍事・民間施設をターゲットとして大規模な空襲、ミサイル、そしてサイバー攻撃を仕掛ける。同時に、在日米軍基地と米領グアムにある米軍基地に対して空爆とミサイル攻撃を行い、米軍を麻痺させて介入までの時間稼ぎを図る。

 これらの攻撃と並行して、数十万人規模の人民解放軍兵士と重装備が積まれた大規模艦隊が、中国本土の港から出発する。

 海上の上陸部隊が台湾に接近する中、人民解放軍の輸送機やヘリコプターで運ばれた空挺部隊が降下し、飛行場や港、政府施設や司令部などの重要な目標を占領。空からの上陸作戦には政治指導部や軍指導者の拘束もしくは殺害の任務を負った特殊部隊が含まれる。中国は物理的な軍事作戦だけでなく、台湾のネットや通信網にサイバー攻撃や偽情報作戦などを展開し、心理戦を仕掛ける。

 上陸部隊は海岸から内陸へ前進し、特殊部隊は主要な港を掌握し、一気に台湾本島を完全制圧する。


 以上が、ロイター通信の「T-DAY」に関する「6つの有事シナリオ」のシミュレーションの概要である。

 おそらく最も蓋然性が高いのは、第5の「大規模空襲作戦」と第6の「全面侵攻」の同時並行の実施であると思われる。

 中国としても、米国とその同盟国が反応する前に台湾の完全制圧を達成しなければ絶対に失敗する事は十分に分かっているはずだからである。

 台湾有事が勃発した場合、中国軍の台湾全面侵攻の直後に米軍が反撃して中国軍を押し戻さない限り、全ては「後の祭り」になるであろう。台湾全島を中国に制圧された後であれば、米国としては手も足も出せなくなるからである。

 この事は、2014年2月のロシアによるクリミア占領や、2021年8月のタリバンによるアフガン制圧の際に露呈した米国の無力さと不作為ぶりを見ても明らかである。

 近頃、急浮上している「南西諸島への米軍基地設置」計画も、こうした文脈で考えれば決して無意味とは言えない。

 台湾有事に関する限り、長年懸案の「辺野古」よりも「南西諸島」の方が遥かに戦略的に重要である事は間違いない。

 台湾有事は、最初の数時間あるいは最初の数分間が勝負の分かれ目になると予想されるからである。

 我が国は、2021年4月の日米首脳会談および同年6月のG7首脳会談において、「台湾海峡の平和と安定および両岸問題の平和的解決」に積極的にコミットする事を国際社会に向けて公約した。

 その国際公約は必ず果たされなければならない。

 今年、日本政府には重大な政治決断が求められる事になるであろう。












《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




 定款(PDFファイル)




《連絡先

一般財団法人
人権財団本部
〒100-0014
東京都千代田区永田町2-9-6
十全ビル 306号
TEL: 03-5501-3413